数学C / ベクトル

ベクトルの内積

要点整理

これまでのベクトルの計算(和・差・実数倍)の結果は、すべて「ベクトル」でした。ここで学ぶ内積は、2つのベクトルから1つの(実数)を作り出す、新しいタイプの計算です。

内積の定義

$\vec{a}$、$\vec{b}$ を零ベクトルでないベクトルとし、この2つの始点をそろえて描いたときにできる角を $\theta$(なす角、$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$)とします。このとき、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ の内積を、

$\vec{a} \cdot \vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$

と定めます。右辺は「$\vec{a}$ の大きさ」と「$\vec{b}$ の大きさ」と「なす角の余弦(コサイン)」をすべて掛け合わせたものです。$\cos\theta$ は数学IまたはIIで学んだ三角比・三角関数で、$\theta$ が鋭角のときは直角三角形の「隣辺 $\div$ 斜辺」、一般角では単位円を使って定義される値でした。

なお、$\vec{a} = \vec{0}$ または $\vec{b} = \vec{0}$ のときは、$\vec{a} \cdot \vec{b} = 0$ と定めます。

$\cos\theta$ の値は $\theta$ の範囲によって符号が変わることを思い出しましょう。

  • $0^\circ \leq \theta < 90^\circ$(鋭角)のとき $\cos\theta > 0$ なので $\vec{a} \cdot \vec{b} > 0$
  • $\theta = 90^\circ$(直角)のとき $\cos\theta = 0$ なので $\vec{a} \cdot \vec{b} = 0$
  • $90^\circ < \theta \leq 180^\circ$(鈍角)のとき $\cos\theta < 0$ なので $\vec{a} \cdot \vec{b} < 0$

つまり内積の符号を見るだけで、2つのベクトルが「近い向きを向いているか(鋭角)」「垂直か」「反対向きに近いか(鈍角)」がわかるのです。

内積の成分計算

内積は定義どおりに $|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ を計算しようとすると、なす角 $\theta$ を求める必要があり面倒です。しかし成分表示がわかっていれば、角度を求めずに内積を計算できる公式があります。

$\vec{a} = (a_1, a_2)$、$\vec{b} = (b_1, b_2)$ のとき、

$\vec{a} \cdot \vec{b} = a_1 b_1 + a_2 b_2$

この公式が成り立つ理由を確認しておきましょう。原点を $\mathrm{O}$ とし、$\overrightarrow{\mathrm{OA}} = \vec{a} = (a_1, a_2)$、$\overrightarrow{\mathrm{OB}} = \vec{b} = (b_1, b_2)$ とします。$\triangle \mathrm{OAB}$ において、$\angle \mathrm{AOB} = \theta$ として、余弦定理を使います。余弦定理とは、三角形の3辺の長さと1つの角の余弦の関係を表す定理で、

$\mathrm{AB}^2 = \mathrm{OA}^2 + \mathrm{OB}^2 - 2 \cdot \mathrm{OA} \cdot \mathrm{OB} \cdot \cos\theta$

というものでした。ここで $\mathrm{OA} = |\vec{a}|$、$\mathrm{OB} = |\vec{b}|$、$\mathrm{AB} = |\overrightarrow{\mathrm{AB}}| = |\vec{b} - \vec{a}|$ です。この式を $\cos\theta$ について解くと、

$\cos\theta = \frac{|\vec{a}|^2 + |\vec{b}|^2 - |\vec{b} - \vec{a}|^2}{2|\vec{a}||\vec{b}|}$

両辺に $|\vec{a}||\vec{b}|$ を掛けると、左辺は内積の定義そのものである $\vec{a}\cdot\vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ になるので、

$\vec{a} \cdot \vec{b} = \frac{|\vec{a}|^2 + |\vec{b}|^2 - |\vec{b} - \vec{a}|^2}{2}$

ここで、成分を代入して分子を計算します。$|\vec{a}|^2 = a_1^2 + a_2^2$、$|\vec{b}|^2 = b_1^2 + b_2^2$、$\vec{b} - \vec{a} = (b_1 - a_1,\ b_2 - a_2)$ なので $|\vec{b} - \vec{a}|^2 = (b_1 - a_1)^2 + (b_2 - a_2)^2$ です。これを展開すると、

$(b_1 - a_1)^2 + (b_2 - a_2)^2 = (b_1^2 - 2a_1 b_1 + a_1^2) + (b_2^2 - 2a_2 b_2 + a_2^2)$

したがって分子は、

$(a_1^2 + a_2^2) + (b_1^2 + b_2^2) - \left[(b_1^2 - 2a_1b_1 + a_1^2) + (b_2^2 - 2a_2b_2 + a_2^2)\right]$

$= a_1^2 + a_2^2 + b_1^2 + b_2^2 - b_1^2 + 2a_1b_1 - a_1^2 - b_2^2 + 2a_2b_2 - a_2^2$

同じ文字どうしを打ち消し合わせると($a_1^2$ どうし、$a_2^2$ どうし、$b_1^2$ どうし、$b_2^2$ どうしがそれぞれ消えます)、

$= 2a_1b_1 + 2a_2b_2$

これを $2$ で割ったものが $\vec{a}\cdot\vec{b}$ なので、

$\vec{a} \cdot \vec{b} = \frac{2a_1b_1 + 2a_2b_2}{2} = a_1b_1 + a_2b_2$

となり、公式が確かめられました。この先は、なす角を経由せず、この成分公式を使って内積を計算していきます。

内積の性質

内積には次の性質があります($\vec{a}$、$\vec{b}$、$\vec{c}$ はベクトル、$k$ は実数)。

  • $\vec{a} \cdot \vec{b} = \vec{b} \cdot \vec{a}$(交換法則)
  • $\vec{a} \cdot (\vec{b} + \vec{c}) = \vec{a} \cdot \vec{b} + \vec{a} \cdot \vec{c}$(分配法則)
  • $(k\vec{a}) \cdot \vec{b} = k(\vec{a} \cdot \vec{b})$
  • $\vec{a} \cdot \vec{a} = |\vec{a}|^2$

最後の性質は、なす角 $\theta = 0^\circ$(同じベクトルどうしのなす角は $0^\circ$)なので $\cos 0^\circ = 1$ となり、$\vec{a} \cdot \vec{a} = |\vec{a}||\vec{a}|\cos 0^\circ = |\vec{a}|^2$ となることからわかります。成分で確かめても、$\vec{a}\cdot\vec{a} = a_1 \cdot a_1 + a_2 \cdot a_2 = a_1^2+a_2^2 = |\vec{a}|^2$ となり一致します。

垂直条件

$\vec{a} \neq \vec{0}$、$\vec{b} \neq \vec{0}$ のとき、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ が垂直である($\vec{a} \perp \vec{b}$ と書きます)ということは、なす角 $\theta = 90^\circ$ ということです。$\cos 90^\circ = 0$ なので、

$\vec{a} \perp \vec{b} \iff \vec{a} \cdot \vec{b} = 0$

が成り立ちます。この条件は非常によく使われます。図形の問題で「垂直である」という条件を、内積が $0$ という計算しやすい式に変換できるからです。

なす角の求め方

内積の定義の式 $\vec{a}\cdot\vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ を $\cos\theta$ について解くと、

$\cos\theta = \frac{\vec{a} \cdot \vec{b}}{|\vec{a}||\vec{b}|}$

となります。右辺を成分から計算し、$\cos\theta$ の値から $\theta$ を求めることができます。

例題

例題1(基本)

問題

$\vec{a} = (2, 1)$、$\vec{b} = (3, -1)$ のとき、次のものを求めなさい。

(1) $\vec{a} \cdot \vec{b}$ (2) $\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角 $\theta$

解答・解説を見る

(1) 内積の成分公式 $\vec{a}\cdot\vec{b} = a_1b_1 + a_2b_2$ を使います。

$\vec{a} \cdot \vec{b} = 2 \times 3 + 1 \times (-1) = 6 - 1 = 5$

(2) まず、$|\vec{a}|$ と $|\vec{b}|$ を求めます。

$|\vec{a}| = \sqrt{2^2 + 1^2} = \sqrt{4 + 1} = \sqrt{5}$

$|\vec{b}| = \sqrt{3^2 + (-1)^2} = \sqrt{9 + 1} = \sqrt{10}$

なす角の公式 $\cos\theta = \dfrac{\vec{a}\cdot\vec{b}}{|\vec{a}||\vec{b}|}$ に、(1)で求めた $\vec{a}\cdot\vec{b} = 5$ を代入します。

$\cos\theta = \frac{5}{\sqrt{5}\sqrt{10}} = \frac{5}{\sqrt{50}}$

$\sqrt{50}$ を簡単にします。$50 = 25 \times 2$ なので $\sqrt{50} = \sqrt{25}\sqrt{2} = 5\sqrt{2}$ です。

$\cos\theta = \frac{5}{5\sqrt{2}} = \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2}$

$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の範囲で $\cos\theta = \dfrac{\sqrt{2}}{2}$ となる角は $\theta = 45^\circ$ です。

答え: (1) $\vec{a}\cdot\vec{b} = 5$ (2) $\theta = 45^\circ$

例題2(標準)

問題

$\vec{a} = (1, 2)$、$\vec{b} = (3, -1)$ とする。$\vec{a} + t\vec{b}$ が $\vec{a}$ に垂直になるように、実数 $t$ の値を求めなさい。

解答・解説を見る

垂直条件は「内積が $0$」でした。$\vec{a} + t\vec{b}$ と $\vec{a}$ が垂直であるという条件を、内積の式にします。

$(\vec{a} + t\vec{b}) \cdot \vec{a} = 0$

内積の分配法則 $\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c}) = \vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$ と同じ考え方を使って、左辺を展開します。ここでは $(\vec{a}+t\vec{b})\cdot\vec{a}$ を、$\vec{a}\cdot\vec{a}$ と $t\vec{b}\cdot\vec{a}$ の和として展開します。

$\vec{a}\cdot\vec{a} + t(\vec{b}\cdot\vec{a}) = 0$

内積は交換法則が成り立つので $\vec{b}\cdot\vec{a} = \vec{a}\cdot\vec{b}$ と書き直せます。また $\vec{a}\cdot\vec{a} = |\vec{a}|^2$ でした。

$|\vec{a}|^2 + t(\vec{a}\cdot\vec{b}) = 0$

それぞれの値を計算します。

$|\vec{a}|^2 = 1^2 + 2^2 = 1 + 4 = 5$

$\vec{a}\cdot\vec{b} = 1 \times 3 + 2 \times (-1) = 3 - 2 = 1$

これらを代入します。

$5 + t \times 1 = 0$

$5 + t = 0$

$t = -5$

答え: $t = -5$

(検算: $t=-5$ のとき $\vec{a}+t\vec{b} = (1,2) + (-5)(3,-1) = (1,2)+(-15,5) = (-14,7)$。$\vec{a}\cdot(\vec{a}+t\vec{b}) = 1\times(-14)+2\times 7 = -14+14=0$ となり、確かに垂直です。)

例題3(応用)

問題

$|\vec{a}| = 3$、$|\vec{b}| = 4$ で、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角が $60^\circ$ であるとき、$|\vec{a} - \vec{b}|$ を求めなさい。

解答・解説を見る

このように成分がわからず大きさとなす角しか与えられていない場合は、$|\vec{a}-\vec{b}|^2$ を内積の性質を使って展開する、という頻出のテクニックを使います。

まず、内積の性質 $\vec{a}\cdot\vec{a} = |\vec{a}|^2$ を使って、$|\vec{a}-\vec{b}|^2$ を内積の形に書き直します。

$|\vec{a} - \vec{b}|^2 = (\vec{a} - \vec{b}) \cdot (\vec{a} - \vec{b})$

これを、文字式の展開 $(A-B)(A-B) = A^2 - 2AB + B^2$ と同じ要領で展開します(内積の分配法則を使います)。

$(\vec{a} - \vec{b}) \cdot (\vec{a} - \vec{b}) = \vec{a}\cdot\vec{a} - \vec{a}\cdot\vec{b} - \vec{b}\cdot\vec{a} + \vec{b}\cdot\vec{b}$

$\vec{a}\cdot\vec{b} = \vec{b}\cdot\vec{a}$(交換法則)なので、真ん中の2項をまとめます。

$= \vec{a}\cdot\vec{a} - 2\vec{a}\cdot\vec{b} + \vec{b}\cdot\vec{b} = |\vec{a}|^2 - 2\vec{a}\cdot\vec{b} + |\vec{b}|^2$

つまり、

$|\vec{a} - \vec{b}|^2 = |\vec{a}|^2 - 2\vec{a}\cdot\vec{b} + |\vec{b}|^2$

という公式が得られました。ここに数値を代入していきます。まず内積 $\vec{a}\cdot\vec{b}$ を、定義の式 $\vec{a}\cdot\vec{b} = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ から求めます。

$\vec{a}\cdot\vec{b} = 3 \times 4 \times \cos 60^\circ$

$\cos 60^\circ = \dfrac{1}{2}$ なので、

$\vec{a}\cdot\vec{b} = 3 \times 4 \times \frac{1}{2} = \frac{12}{2} = 6$

これを先ほどの式に代入します。

$|\vec{a} - \vec{b}|^2 = 3^2 - 2 \times 6 + 4^2 = 9 - 12 + 16 = 13$

$|\vec{a}-\vec{b}| \geq 0$ なので、

$|\vec{a} - \vec{b}| = \sqrt{13}$

答え: $|\vec{a} - \vec{b}| = \sqrt{13}$

練習問題

問題1

$\vec{a} = (4, 3)$、$\vec{b} = (-1, 2)$ のとき、$\vec{a} \cdot \vec{b}$ を求めなさい。

答え

$\vec{a}\cdot\vec{b} = 4\times(-1) + 3\times 2 = -4+6 = 2$

問題2

$\vec{a} = (2, k)$、$\vec{b} = (1, -3)$ が垂直であるとき、$k$ の値を求めなさい。

答え

$k = \dfrac{2}{3}$

(解説: $\vec{a}\cdot\vec{b} = 2\times 1 + k\times(-3) = 2 - 3k$。垂直条件より $2-3k=0$ なので $k=\dfrac{2}{3}$。)

問題3

$|\vec{a}| = 2$、$|\vec{b}| = 3$ で、$\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角が $120^\circ$ であるとき、$\vec{a}\cdot\vec{b}$ と $|\vec{a} + \vec{b}|$ を求めなさい。

答え

$\vec{a}\cdot\vec{b} = -3$、$|\vec{a}+\vec{b}| = \sqrt{7}$

(解説: $\vec{a}\cdot\vec{b} = 2\times3\times\cos120^\circ = 6\times\left(-\dfrac{1}{2}\right) = -3$。$|\vec{a}+\vec{b}|^2 = |\vec{a}|^2+2\vec{a}\cdot\vec{b}+|\vec{b}|^2 = 4+2\times(-3)+9 = 4-6+9=7$ なので $|\vec{a}+\vec{b}|=\sqrt{7}$。)