数学II / いろいろな式
恒等式と等式・不等式の証明
要点整理
「いろいろな式」の単元も、このページで最後になります。これまでのページでは、剰余の定理や因数定理を使って高次方程式を解く方法(高次方程式の解法)を学んできました。今回はその計算そのものを使うわけではありませんが、「式を丁寧に変形しながら、根拠を一つずつ積み重ねる」という姿勢は共通して大切になります。この単元のまとめとして、恒等式の考え方と、等式・不等式を「証明する」という技術を身につけましょう。
1. 恒等式とは何か
まず、「方程式」と「恒等式」の違いを確認します。
- 方程式:特定の $x$ の値でしか成り立たない等式です。たとえば $x+1=3$ は、$x=2$ のときだけ成り立ちます。
- 恒等式:$x$ にどんな値を代入しても、両辺の値が常に等しくなる等式です。たとえば
$(x+1)^2=x^2+2x+1$
は、左辺を展開すると必ず右辺と同じ式になるので、$x$ にどんな数を入れても成り立ちます。このような等式を「$x$ についての恒等式」と呼びます。
2. 恒等式から未知の定数を求める方法
「この等式が恒等式になるように、定数 $a,\ b,\ c$ の値を求めなさい」という問題がよく出ます。その解き方には主に2通りあります。
- 係数比較法:両辺を $x$ について整理し(同じ次数の項をまとめ)、$x^2$ の係数どうし、$x^1$ の係数どうし、定数項どうしがそれぞれ等しいとおいて連立方程式を作る方法です。次数がそろっている限り、この方法で求めた答えはそのまま正しい答えになります。
- 数値代入法:$x$ に具体的な数(例えば $x=0,\ 1,\ 2$ など)を代入して得られる等式から、定数の値の候補を求める方法です。ただし、これは「代入した数のところでだけ等しい」ことしか保証していないので、最後に必ず元の式へ戻して展開し、本当に恒等式になっているかを確かめる(検算する)必要があります。
3. 等式を証明するときの考え方
「$A=B$ であることを証明せよ」という問題では、次のような方針がよく使われます。
- 方針①:$A-B$ を計算し、それが $0$ になることを示す。
- 方針②:文字の数を減らす。条件式(たとえば $a+b+c=0$ のような式)があるとき、その条件を使って1つの文字を消去し、残りの文字だけの式にしてから両辺を比べる。
- 方針③:$A$ と $B$ をそれぞれ別々に変形して、同じ形の式にたどり着かせる。
4. 不等式を証明するときの考え方
「$A \geq B$ であることを証明せよ」という問題では、方程式のように移項して終わり、という単純な計算にはなりません。基本の方針は次の通りです。
- $A-B$ を計算し、それが $0$ 以上になることを示す(これを $A-B\geq 0$ の形に持ち込む、と言います)。
- そのために、実数を2乗すると必ず $0$ 以上になるという事実(どんな実数 $t$ についても $t^2\geq 0$)をよく利用します。式を「(何か)$^2$」の形(完全平方の形)に整理できれば、それが $0$ 以上であることがすぐに分かります。
- 等号(イコール)が成り立つのがどんなときかも、あわせて答える必要があります。多くの場合、2乗の中身が $0$ になるときです。
この考え方から導かれる、特に有名な不等式が「相加相乗平均の関係」です。$a\geq 0,\ b\geq 0$ のとき、2つの数の相加平均(足して2で割った平均)$\dfrac{a+b}{2}$ と、相乗平均(かけてルートをとった平均)$\sqrt{ab}$ の間には、次の関係が成り立ちます。
$\frac{a+b}{2} \geq \sqrt{ab} \quad (\text{等号成立は } a=b \text{ のとき})$
これは次のように証明できます。$a\geq0,\ b\geq0$ なので $\sqrt{a},\ \sqrt{b}$ という実数が定まります。実数の2乗は $0$ 以上なので、
$(\sqrt{a}-\sqrt{b})^2\geq 0$
左辺を展開します。$(\sqrt{a})^2=a$、$(\sqrt{b})^2=b$、$\sqrt{a}\times\sqrt{b}=\sqrt{ab}$ であることを使うと、
$a-2\sqrt{ab}+b\geq 0$
$2\sqrt{ab}$ を右辺に移項すると、
$a+b\geq 2\sqrt{ab}$
両辺を $2$ で割ると(不等号の向きは変わりません。$2$ は正の数だからです)、
$\frac{a+b}{2}\geq \sqrt{ab}$
が得られます。等号が成り立つのは、最初の式 $(\sqrt{a}-\sqrt{b})^2\geq 0$ で等号が成り立つとき、つまり $\sqrt{a}-\sqrt{b}=0$、すなわち $a=b$ のときです。この関係は不等式の証明でとてもよく使われるので、しっかり覚えておきましょう。
例題
例題1(基本)
問題
次の等式が $x$ についての恒等式であるとき、定数 $a,\ b,\ c$ の値を求めよ。
$x^2-2x+3=a(x-1)^2+b(x-1)+c$
解答・解説を見る
右辺を展開して、左辺と同じように「$x$ について整理された形」にそろえます。
まず $(x-1)^2$ を展開します。
$(x-1)^2=x^2-2x+1$
これを使って、右辺全体を計算します。
$a(x-1)^2+b(x-1)+c=a(x^2-2x+1)+b(x-1)+c$
分配法則でかっこを外します。
$=ax^2-2ax+a+bx-b+c$
$x$ について次数ごとにまとめます($x^2$ の項、$x^1$ の項、定数項の順に整理します)。
$=ax^2+(-2a+b)x+(a-b+c)$
したがって、恒等式は次の形になります。
$x^2-2x+3=ax^2+(-2a+b)x+(a-b+c)$
これがすべての $x$ について成り立つためには、両辺で同じ次数の項の係数が一致していなければなりません(係数比較法)。左辺は $x^2$ の係数が $1$、$x^1$ の係数が $-2$、定数項が $3$ です。それぞれを比べます。
$x^2 \text{の係数}:\ a=1$
$x^1 \text{の係数}:\ -2a+b=-2$
$\text{定数項}:\ a-b+c=3$
まず1つ目の式から $a=1$ とわかります。これを2つ目の式に代入します。
$-2(1)+b=-2$
$-2+b=-2$
$b=0$
$a=1,\ b=0$ を3つ目の式に代入します。
$1-0+c=3$
$c=2$
以上より、
$a=1,\quad b=0,\quad c=2$
検算(数値代入法での確認):$a=1,\ b=0,\ c=2$ を右辺にもどすと、右辺は $1\cdot(x-1)^2+0+2=(x-1)^2+2=x^2-2x+1+2=x^2-2x+3$ となり、確かに左辺と完全に一致します。このように、答えを出したあとで元の式に戻して展開し直すことは、特に $x$ に数値を代入して定数を求めた場合(数値代入法)には欠かせない手順です。今回は係数比較法で求めたので理論的には確認不要ですが、検算する習慣をつけておくと計算ミスを防げます。
例題2(標準)
問題
$a+b+c=0$ のとき、次の等式を証明せよ。
$a^3+b^3+c^3=3abc$
解答・解説を見る
この問題には、条件式 $a+b+c=0$ が与えられています。文字が3つ($a,b,c$)あるままだと扱いにくいので、方針②の「条件式を使って文字を1つ消去する」という考え方を使いましょう。
$a+b+c=0$ を $c$ について解くと、
$c=-a-b$
これを証明したい等式の左辺 $a^3+b^3+c^3$ に代入して、右辺 $3abc$ と一致するかどうかを確かめます。まず $c^3$ を計算します。
$c^3=(-a-b)^3=\bigl(-(a+b)\bigr)^3=-(a+b)^3$
ここで、乗法公式 $(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$ を使って $(a+b)^3$ を展開します。
$(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$
したがって、
$c^3=-(a^3+3a^2b+3ab^2+b^3)=-a^3-3a^2b-3ab^2-b^3$
これを左辺 $a^3+b^3+c^3$ に代入します。
$a^3+b^3+c^3=a^3+b^3+(-a^3-3a^2b-3ab^2-b^3)$
$a^3$ どうし、$b^3$ どうしが打ち消し合います。
$=(a^3-a^3)+(b^3-b^3)-3a^2b-3ab^2$
$=-3a^2b-3ab^2$
共通因数 $-3ab$ でくくります。
$=-3ab(a+b)$
次に、右辺 $3abc$ も $c=-a-b$ を使って同じ文字($a,b$)だけの式に変形します。
$3abc=3ab\cdot c=3ab\cdot(-a-b)=-3ab(a+b)$
左辺を変形した結果も、右辺を変形した結果も、どちらも $-3ab(a+b)$ という同じ式になりました(方針③:両辺を別々に変形して同じ形にたどり着かせる、にも当てはまります)。したがって、
$a^3+b^3+c^3=-3ab(a+b)=3abc$
が成り立つことが証明できました。
例題3(応用)
問題
$a,\ b$ を正の実数とするとき、次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つのはどのようなときか。
$\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\geq 2$
解答・解説を見る
不等式の証明の基本方針は「(左辺)$-$(右辺)を計算して、それが $0$ 以上になることを示す」ことでした。さっそく計算してみましょう。
$\frac{a}{b}+\frac{b}{a}-2$
分数の形をそろえるため、通分します。$\dfrac{a}{b}$ の分母・分子に $a$ を掛け、$\dfrac{b}{a}$ の分母・分子に $b$ を掛けて、分母を $ab$ にそろえます。
$\frac{a}{b}=\frac{a\times a}{b\times a}=\frac{a^2}{ab},\qquad \frac{b}{a}=\frac{b\times b}{a\times b}=\frac{b^2}{ab}$
また、$2=\dfrac{2ab}{ab}$ と書き直せます。これらをまとめると、
$\frac{a}{b}+\frac{b}{a}-2=\frac{a^2}{ab}+\frac{b^2}{ab}-\frac{2ab}{ab}=\frac{a^2+b^2-2ab}{ab}$
ここで、分子の $a^2+b^2-2ab$ に注目します。これは乗法公式 $(a-b)^2=a^2-2ab+b^2$ の右辺と同じ形(足す順番が違うだけ)なので、
$a^2+b^2-2ab=(a-b)^2$
と、完全平方の形に書き直せます。したがって、
$\frac{a}{b}+\frac{b}{a}-2=\frac{(a-b)^2}{ab}$
この式の符号を考えます。
- 分子の $(a-b)^2$ は、実数 $a-b$ を2乗した形なので、必ず $0$ 以上です($(a-b)^2\geq 0$)。
- 分母の $ab$ は、$a>0,\ b>0$ という条件から、正の数どうしの積なので $ab>0$ です。
「$0$ 以上の数」を「正の数」で割った結果は、やはり $0$ 以上になります。したがって、
$\frac{(a-b)^2}{ab}\geq 0$
つまり、
$\frac{a}{b}+\frac{b}{a}-2\geq 0$
移項すると、
$\frac{a}{b}+\frac{b}{a}\geq 2$
が証明できました。
等号が成り立つとき:上の議論で等号が成り立つのは、分子の $(a-b)^2=0$ となるとき、すなわち $a-b=0$、つまり $a=b$ のときです(分母 $ab$ は $a,b>0$ より常に正で $0$ にはならないので、分数全体が $0$ になるのは分子が $0$ のときだけです)。
練習問題
問題
$a>0$ のとき、次の不等式を証明せよ。また、等号が成り立つのは $a$ がどのような値のときか。
$a+\frac{4}{a}\geq 4$
答え
要点整理で証明した相加相乗平均の関係 $\dfrac{x+y}{2}\geq\sqrt{xy}\ (x\geq0,\ y\geq0)$ を、$x=a,\ y=\dfrac{4}{a}$ として使います。$a>0$ より $\dfrac{4}{a}>0$ なので、どちらも正の数で条件を満たします。
$\frac{a+\dfrac{4}{a}}{2}\geq\sqrt{a\times\frac{4}{a}}=\sqrt{4}=2$
両辺を $2$ 倍すると、
$a+\frac{4}{a}\geq 4$
が証明できます。等号が成り立つのは $x=y$、すなわち $a=\dfrac{4}{a}$ のときです。両辺に $a$(正の数)を掛けると $a^2=4$ となり、$a=2$ または $a=-2$ が候補になりますが、$a>0$ という条件があるので
$a=2$
のときに等号が成り立ちます。