数学II / いろいろな式

二項定理と多項定理

要点整理

なぜ二項定理が必要なのか

中学や数学Iで、次の展開公式を習ったと思います。

$(a+b)^2 = a^2+2ab+b^2$

$(a+b)^3 = a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$

では、$(a+b)^4$や$(a+b)^{10}$を展開しろと言われたらどうでしょうか。$(a+b)^4=(a+b)(a+b)(a+b)(a+b)$を1つずつ地道に掛け算していくのは、とても大変ですし、計算ミスもしやすいです。そこで、「掛け算をしなくても、展開したあとの係数がすぐにわかる」という便利な道具が二項定理です。

この単元では、数学Aの「場合の数と確率」で学んだ組合せ($\binom{n}{k}$、つまり$_n\mathrm{C}_k$)の考え方を使います。組合せの計算式そのものはすでに知っている前提で進めますので、忘れてしまった人は先に復習しておくと安心です。

係数の正体は「組合せ」

先ほどの$(a+b)^2$と$(a+b)^3$の係数をよく見てください。

  • $(a+b)^2$の係数:$1,\ 2,\ 1$
  • $(a+b)^3$の係数:$1,\ 3,\ 3,\ 1$

実はこれ、$\binom{2}{0},\binom{2}{1},\binom{2}{2}$や$\binom{3}{0},\binom{3}{1},\binom{3}{2},\binom{3}{3}$の値と完全に一致しています。確認してみましょう。

$\binom{2}{0}=1,\quad \binom{2}{1}=2,\quad \binom{2}{2}=1$

$\binom{3}{0}=1,\quad \binom{3}{1}=3,\quad \binom{3}{2}=3,\quad \binom{3}{3}=1$

たしかに一致していますね。これは偶然ではありません。理由を説明します。

$(a+b)^n$とは、$(a+b)$を$n$個掛け合わせたものです。

$(a+b)^n = \underbrace{(a+b)(a+b)\cdots(a+b)}_{n\ 個}$

これを展開するとき、分配法則(かっこを外すルール)を使うと、$n$個のかっこそれぞれから「$a$」か「$b$」のどちらか一方を1つずつ選び出して、それらをすべて掛け合わせる、という作業をすべての選び方について行い、最後に全部足し合わせることになります。

例えば、$a^{n-k}b^k$という形の項(つまり$a$を$n-k$個、$b$を$k$個選んで掛けた項)を作るには、「$n$個のかっこのうち、どのかっこから$b$を選ぶか」を決める必要があります。$b$を選ぶかっこを$k$個選べば、残りの$n-k$個のかっこからは自動的に$a$を選ぶことになります。

「$n$個の中から$b$を選ぶ$k$個のかっこを選ぶ」方法の数は、順番を考えない選び方なので、まさに組合せ$\binom{n}{k}$で数えられます。つまり、$a^{n-k}b^k$という項が展開式の中に$\binom{n}{k}$回登場する、ということです。同じ項は足し合わされてまとめられるので、$a^{n-k}b^k$の係数は$\binom{n}{k}$になります。

二項定理

以上のことから、次の二項定理が成り立ちます。

$(a+b)^n = \binom{n}{0}a^n + \binom{n}{1}a^{n-1}b + \binom{n}{2}a^{n-2}b^2 + \cdots + \binom{n}{n}b^n$

これをシグマ記号(数列の和を表す記号)を使ってまとめて書くと、次のようになります。

$(a+b)^n = \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k}a^{n-k}b^k$

右辺は「$k$を$0$から$n$まで1つずつ変えながら、$\binom{n}{k}a^{n-k}b^k$を全部足し合わせなさい」という意味です。念のため、$\binom{n}{k}$の計算式も確認しておきます。

$\binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n-k)!}$

($n!$は$n$から$1$までの整数をすべて掛け合わせた階乗、$0!=1$と決められていたことも思い出しておきましょう。)

確認:この公式で$n=3$としたときに、本当に知っている展開公式と一致するか確かめてみます。

$(a+b)^3 = \sum_{k=0}^{3}\binom{3}{k}a^{3-k}b^k = \binom{3}{0}a^3+\binom{3}{1}a^2b+\binom{3}{2}ab^2+\binom{3}{3}b^3$

$\binom{3}{0}=1,\ \binom{3}{1}=3,\ \binom{3}{2}=3,\ \binom{3}{3}=1$なので、

$(a+b)^3 = 1\cdot a^3+3\cdot a^2b+3\cdot ab^2+1\cdot b^3 = a^3+3a^2b+3ab^2+b^3$

たしかに、もともと知っていた公式と一致しました。

一般項(1つの項だけを取り出す式)

$(a+b)^n$の展開式は全部で$n+1$個の項からできています。そのうち、$k$を指定したときの項

$T_{k+1} = \binom{n}{k}a^{n-k}b^k$

一般項と呼びます。「$T_{k+1}$」という番号のつけ方に注意してください。$k=0$のときが展開式の第1項、$k=1$のときが第2項、……というように、$k$に$1$を足した番号の項になるので、$T_{k}$ではなく$T_{k+1}$と書きます。これは慣れるまで間違えやすいポイントなので、しっかり意識しておきましょう。

この一般項を使うと、「展開式を全部書き出さなくても、特定の項の係数だけをピンポイントで求める」ことができます。これが二項定理の一番実用的な使い方です。

$(a-b)^n$の場合(符号のミスに注意)

$(a-b)^n$を展開したいときは、$b$の代わりに$-b$を代入すると考えます。つまり、$(a-b)^n = \{a+(-b)\}^n$として二項定理を使います。

$(a-b)^n = \sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}a^{n-k}(-b)^k$

ここで、$(-b)^k = (-1)^k b^k$なので、

$(a-b)^n = \sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}(-1)^k a^{n-k}b^k$

となります。$k$が偶数のときは$+$、$k$が奇数のときは$-$と、符号が交互に入れ替わります。ここを見落として符号ミスをする人がとても多いので、$(a-b)^n$が出てきたら「$-b$を代入している」と意識するようにしてください。

多項定理($(a+b+c)^n$への拡張)

二項定理は「2種類の文字」の和の累乗を展開する定理でした。これを「3種類以上の文字」の和の累乗に拡張したものが多項定理です。ここでは$(a+b+c)^n$を例に考えます。

考え方は二項定理のときと同じです。$(a+b+c)^n$は$(a+b+c)$を$n$個掛け合わせたものなので、

$(a+b+c)^n = \underbrace{(a+b+c)(a+b+c)\cdots(a+b+c)}_{n\ 個}$

展開するときは、$n$個のかっこそれぞれから「$a$」「$b$」「$c$」のどれか1つを選んで掛け合わせます。$a^{p}b^{q}c^{r}$(ただし$p+q+r=n$)という形の項を作るには、$n$個のかっこのうち、$a$を選ぶかっこを$p$個、$b$を選ぶかっこを$q$個、残りの$c$を選ぶかっこを$r$個に分ければよいことになります。

その場合の数を、ステップに分けて数えてみましょう。

ステップ1:$n$個のかっこの中から、$a$を選ぶ$p$個のかっこを選ぶ。この選び方は$\binom{n}{p}$通りです。

ステップ2:残った$n-p$個のかっこの中から、$b$を選ぶ$q$個のかっこを選ぶ。この選び方は$\binom{n-p}{q}$通りです。

ステップ3:残ったかっこ(その個数は$n-p-q$個で、これが$r$個です)はすべて$c$を選ぶことになるので、選び方は考える必要がありません。

したがって、$a^{p}b^{q}c^{r}$という項ができる場合の数は、ステップ1とステップ2の積の法則(場合の数と確率で学んだ「起こり方を掛け合わせる」考え方)により、

$\binom{n}{p}\times\binom{n-p}{q}$

で求められます。これを組合せの公式を使って計算し直してみましょう。

$\binom{n}{p}\times\binom{n-p}{q} = \frac{n!}{p!(n-p)!}\times\frac{(n-p)!}{q!(n-p-q)!}$

分母と分子にある$(n-p)!$を約分すると、

$= \frac{n!}{p!\,q!(n-p-q)!}$

ここで、$r=n-p-q$(3つの個数の合計が$n$なので、$c$を選ぶ個数$r$は$n-p-q$に等しくなります)なので、$n-p-q$を$r$に置き換えると、

$= \frac{n!}{p!\,q!\,r!}$

以上より、$a^{p}b^{q}c^{r}$の係数は$\dfrac{n!}{p!\,q!\,r!}$であることがわかりました。これをすべての$p+q+r=n$を満たす組$(p,q,r)$について足し合わせたものが、多項定理です。

$(a+b+c)^n = \sum_{p+q+r=n} \frac{n!}{p!\,q!\,r!}a^{p}b^{q}c^{r}$

確認:$n=2$のときに知っている公式と一致するか見てみます。$p+q+r=2$を満たす$(p,q,r)$の組は、$(2,0,0),(0,2,0),(0,0,2),(1,1,0),(1,0,1),(0,1,1)$の6通りです。それぞれの係数を計算すると、

$(2,0,0):\ \frac{2!}{2!0!0!}=1,\qquad (0,2,0):\ \frac{2!}{0!2!0!}=1,\qquad (0,0,2):\ \frac{2!}{0!0!2!}=1$

$(1,1,0):\ \frac{2!}{1!1!0!}=2,\qquad (1,0,1):\ \frac{2!}{1!0!1!}=2,\qquad (0,1,1):\ \frac{2!}{0!1!1!}=2$

これらを足し合わせると、

$(a+b+c)^2 = a^2+b^2+c^2+2ab+2ac+2bc$

これは、実際に$(a+b+c)^2$を掛け算して確かめられる、正しい展開結果と一致します。二項定理のときと同じ発想が、そのまま文字の種類を増やしても使えることが確認できました。

例題

例題1(基本)

問題

二項定理を用いて、$(x+2)^4$を展開しなさい。

解答・解説を見る

二項定理

$(a+b)^n = \sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}a^{n-k}b^k$

において、$a=x$、$b=2$、$n=4$として使います。

$(x+2)^4 = \sum_{k=0}^{4}\binom{4}{k}x^{4-k}2^{k}$

$k=0$から$k=4$まで、1つずつ計算していきます。

$k=0$のとき:

$\binom{4}{0}x^{4}2^{0} = 1\times x^4\times 1 = x^4$

$k=1$のとき:

$\binom{4}{1}x^{3}2^{1} = 4\times x^3\times 2 = 8x^3$

$k=2$のとき:

$\binom{4}{2}x^{2}2^{2} = 6\times x^2\times 4 = 24x^2$

$k=3$のとき:

$\binom{4}{3}x^{1}2^{3} = 4\times x\times 8 = 32x$

$k=4$のとき:

$\binom{4}{4}x^{0}2^{4} = 1\times 1\times 16 = 16$

以上の5つの項をすべて足し合わせると、

$(x+2)^4 = x^4+8x^3+24x^2+32x+16$

例題2(標準)

問題

$(2x-3y)^5$の展開式において、$x^2y^3$の項の係数を求めなさい。

解答・解説を見る

$(2x-3y)^5$を$\{(2x)+(-3y)\}^5$と考えて、二項定理の一般項を使います。$a=2x$、$b=-3y$、$n=5$として、

$T_{k+1} = \binom{5}{k}(2x)^{5-k}(-3y)^{k}$

この項の中の$x$の指数に注目すると、$x$の指数は$5-k$です。求めたいのは$x^2y^3$の項なので、$x$の指数が$2$になる$k$を求めます。

$5-k=2$

両辺から$5$を引くと、

$-k=2-5=-3$

両辺に$-1$を掛けると、

$k=3$

このとき、$y$の指数は$k=3$なので、たしかに$y^3$になっており、$x^2y^3$の形と一致しています。

そこで、$k=3$を一般項に代入します。

$T_{4} = \binom{5}{3}(2x)^{5-3}(-3y)^{3} = \binom{5}{3}(2x)^{2}(-3y)^{3}$

ここから、係数の部分だけを丁寧に計算していきます。まず$\binom{5}{3}$を求めます。

$\binom{5}{3} = \frac{5!}{3!\,2!} = \frac{5\times4\times3\times2\times1}{(3\times2\times1)\times(2\times1)} = \frac{120}{6\times2}=\frac{120}{12}=10$

次に$(2x)^2$を計算します。

$(2x)^2 = 2^2x^2 = 4x^2$

次に$(-3y)^3$を計算します。

$(-3y)^3 = (-3)^3y^3 = -27y^3$

これらをすべて掛け合わせます。

$T_4 = 10\times4x^2\times(-27y^3) = 10\times4\times(-27)\times x^2y^3$

数の部分だけを先に計算すると、

$10\times4=40$

$40\times(-27)=-1080$

よって、

$T_4 = -1080\,x^2y^3$

したがって、$x^2y^3$の項の係数は$-1080$です。

例題3(応用)

問題

多項定理を用いて、$(x+y+z)^7$の展開式における$x^3y^2z^2$の項の係数を求めなさい。

解答・解説を見る

多項定理

$(a+b+c)^n = \sum_{p+q+r=n}\frac{n!}{p!\,q!\,r!}a^{p}b^{q}c^{r}$

において、$a=x$、$b=y$、$c=z$、$n=7$とします。求める項は$x^3y^2z^2$なので、指数を比べると$p=3$、$q=2$、$r=2$です。

まず、この$p,q,r$が条件$p+q+r=n$を満たしているかを確認します。

$p+q+r = 3+2+2 = 7 = n$

条件を満たしているので、この項は確かに展開式の中に存在します。この項の係数は、

$\frac{n!}{p!\,q!\,r!} = \frac{7!}{3!\,2!\,2!}$

で求められます。分子の$7!$を計算します。

$7! = 7\times6\times5\times4\times3\times2\times1 = 5040$

分母の$3!\,2!\,2!$を計算します。

$3! = 3\times2\times1=6,\qquad 2!=2\times1=2$

$3!\times2!\times2! = 6\times2\times2 = 24$

よって、

$\frac{7!}{3!\,2!\,2!} = \frac{5040}{24} = 210$

したがって、$x^3y^2z^2$の項の係数は$210$です。

練習問題

問題

$(3x-1)^6$の展開式において、$x^4$の項の係数を求めなさい。

答え

一般項は$T_{k+1}=\binom{6}{k}(3x)^{6-k}(-1)^{k}$です。$x$の指数を$4$にするには$6-k=4$より$k=2$。

$T_3 = \binom{6}{2}(3x)^4(-1)^2 = 15\times81x^4\times1 = 1215x^4$

よって、係数は$\boldsymbol{1215}$です。