数学I / データの分析
分散と標準偏差
要点整理
数学Iの「データの分析」では、すでに「データの代表値(平均・中央値・最頻値)」を学びました。平均値は「データ全体の中心はどこか」を表す数値でしたが、今回学ぶ「分散」と「標準偏差」は、「データが中心(平均)からどれくらいバラついているか」を表す数値です。
偏差とは何か
まず、次のような3人のテストの得点を考えます。
$2, \ 4, \ 6$
この3つの得点の平均値は、
$\bar{x} = \frac{2+4+6}{3} = \frac{12}{3} = 4$
です。ここで、$\bar{x}$(エックスバーと読みます)は「データ全体の平均値」を表す記号です。
それぞれのデータの値から、この平均値 $\bar{x}=4$ を引いた値を偏差と呼びます。
- $2 - 4 = -2$
- $4 - 4 = 0$
- $6 - 4 = 2$
このように、偏差は「そのデータが平均よりどれだけ大きいか(または小さいか)」を表す数値です。平均より大きければ正の数、平均より小さければ負の数になります。
ここで1つ大事な性質があります。上の3つの偏差を全部足すと、
$(-2) + 0 + 2 = 0$
となり、ちょうど $0$ になります。実はこれは偶然ではなく、偏差の合計はどんなデータでも必ず $0$ になるという性質があります。平均値とは「データを均等にならしたときの高さ」なので、平均より上にはみ出た分と、平均より下に足りない分がちょうど釣り合うからです。
このため、偏差をそのまま平均しても常に $0$ になってしまい、「散らばりの大きさ」を測る道具として使えません。そこで、偏差を2乗してからマイナスの符号を消し、その上で平均を取る、という工夫をします。これが次に説明する「分散」です。
分散の定義
データが $n$ 個あるとし、それぞれの値を $x_1, x_2, x_3, \ldots, x_n$ と書きます。ここで $n$ は「データの個数」を表す文字、$x_1, x_2, \ldots, x_n$ は「1番目のデータ、2番目のデータ、$\ldots$、$n$番目のデータ」を表します。また平均値を $\bar{x}$ とします。
このとき、分散(記号は $s^2$ で表すことが多いです)を次の式で定義します。
$s^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x})^2$
この式に出てくる $\sum_{i=1}^{n}$(シグマ)は、「$i$ を $1$ から $n$ まで $1$ ずつ変えながら、その式を全部足し合わせる」という意味の記号です。つまり、
$\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x})^2 = (x_1-\bar{x})^2 + (x_2-\bar{x})^2 + (x_3-\bar{x})^2 + \cdots + (x_n-\bar{x})^2$
という「全データの偏差の2乗をすべて足したもの」を表しています。分散の式は、これを $n$ で割って、つまり平均を取っています。言葉で言うと、
$\text{分散} = \text{偏差の2乗の平均}$
ということです。分散が大きいほど、データは平均から遠くに散らばっていることになり、分散が小さいほど、データは平均の近くに集まっていることになります。
先ほどの $2, 4, 6$ の例で実際に計算してみましょう。偏差は $-2, 0, 2$ でした。これを2乗すると $4, 0, 4$ です。これを平均すると、
$s^2 = \frac{4+0+4}{3} = \frac{8}{3}$
これがこのデータの分散です。
分散のもう1つの公式(計算に便利な式)
分散の定義式は「偏差」を1つずつ計算してから2乗するので、平均値が分数になったりすると計算が面倒になることがあります。そこで、実は次のような式変形をすると、もっと計算しやすい式が得られます。
まず、定義式の中の $(x_i-\bar{x})^2$ を展開します。これは $(a-b)^2 = a^2 - 2ab + b^2$ という中学校で習った展開公式の $a$ に $x_i$、$b$ に $\bar{x}$ を当てはめたものです。
$(x_i-\bar{x})^2 = x_i^2 - 2\bar{x}x_i + \bar{x}^2$
これを分散の定義式に代入して、$\sum$ を1項ずつに分けます($\sum$ は足し算をまとめて表しているだけなので、足し算の中身をバラバラに分けて足しても結果は同じです)。
$s^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\left(x_i^2 - 2\bar{x}x_i + \bar{x}^2\right) = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i^2 - \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}2\bar{x}x_i + \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\bar{x}^2$
ここで、真ん中の項を見ると、$\bar{x}$ は $i$ が変わっても変化しない定数なので、$\sum$ の外に出すことができます。
$\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}2\bar{x}x_i = \frac{2\bar{x}}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i$
さらに、平均値の定義そのものが $\bar{x} = \dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{i=1}^{n}x_i$ ですから、$\displaystyle\sum_{i=1}^{n}x_i = n\bar{x}$ と書き換えられます。これを代入すると、
$\frac{2\bar{x}}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i = \frac{2\bar{x}}{n}\times n\bar{x} = 2\bar{x}^2$
同様に右端の項は、$\bar{x}^2$ を $n$ 個足して $n$ で割るだけなので、
$\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\bar{x}^2 = \frac{1}{n}\times n\bar{x}^2 = \bar{x}^2$
以上をまとめると、
$s^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i^2 - 2\bar{x}^2 + \bar{x}^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i^2 - \bar{x}^2$
となります。つまり、
$s^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i^2 - \bar{x}^2$
これが「計算に便利な式」です。言葉で言うと、
$\text{分散} = (\text{データの2乗の平均}) - (\text{データの平均})^2$
ということです。先ほどの例($2,4,6$、平均 $4$)で確認すると、$2$乗の平均は $\dfrac{4+16+36}{3} = \dfrac{56}{3}$ で、これから $\bar{x}^2 = 16$ を引くと $\dfrac{56}{3} - 16 = \dfrac{56-48}{3} = \dfrac{8}{3}$ となり、先ほどの定義式で求めた結果と一致します。データによっては、こちらの式のほうが計算が楽になることが多いです。
標準偏差とは何か
分散は「偏差を2乗した値の平均」なので、元のデータの単位が「点」や「cm」であっても、分散の単位は「点$^2$」や「cm$^2$」のように2乗されてしまいます。これでは元のデータと直接比べにくいので、分散の正の平方根を取って単位を元に戻したものを標準偏差と呼びます。
$s = \sqrt{s^2}$
先ほどの $2,4,6$ の例では、分散が $\dfrac{8}{3}$ でしたので、標準偏差は $s = \sqrt{\dfrac{8}{3}}$ となります。標準偏差は、分散よりも「データが平均から平均的にどれくらい離れているか」を直感的に表す数値として使われます。
例題
例題1(基本)
問題
次の5個のデータの分散と標準偏差を、それぞれ定義の式($s^2 = \dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x})^2$)を使って求めなさい。
$3, \ 5, \ 7, \ 7, \ 8 \ (\text{点})$
解答・解説を見る
ステップ1 平均値を求める
データの個数は $n=5$ です。まず合計を計算します。
$3+5+7+7+8 = 30$
平均値は、
$\bar{x} = \frac{30}{5} = 6$
ステップ2 各データの偏差を求める
それぞれのデータから平均値 $6$ を引きます。
$3-6=-3, \quad 5-6=-1, \quad 7-6=1, \quad 7-6=1, \quad 8-6=2$
ステップ3 偏差を2乗する
$(-3)^2=9, \quad (-1)^2=1, \quad 1^2=1, \quad 1^2=1, \quad 2^2=4$
ステップ4 2乗した偏差の合計を求める
$9+1+1+1+4 = 16$
ステップ5 分散を求める(合計を $n=5$ で割る)
$s^2 = \frac{16}{5} = 3.2$
ステップ6 標準偏差を求める(分散の平方根)
$s = \sqrt{3.2} = \sqrt{\frac{16}{5}} = \frac{\sqrt{16}}{\sqrt{5}} = \frac{4}{\sqrt{5}}$
分母に根号が残っているので、分母と分子の両方に $\sqrt{5}$ をかけて、分母を有理数にします(これを分母の有理化といいます)。
$\frac{4}{\sqrt{5}} = \frac{4\times\sqrt{5}}{\sqrt{5}\times\sqrt{5}} = \frac{4\sqrt{5}}{5}$
したがって、
$s^2 = 3.2, \qquad s = \frac{4\sqrt{5}}{5} \ (\approx 1.79)$
が答えです。
例題2(標準)
問題
次の8個のデータについて、「計算に便利な式」$s^2 = \dfrac{1}{n}\displaystyle\sum_{i=1}^{n}x_i^2 - \bar{x}^2$ を使って分散を求め、さらに標準偏差を求めなさい。
$2, \ 4, \ 4, \ 4, \ 5, \ 5, \ 7, \ 9$
解答・解説を見る
ステップ1 平均値を求める
データの個数は $n=8$ です。合計を計算します。
$2+4+4+4+5+5+7+9 = 40$
平均値は、
$\bar{x} = \frac{40}{8} = 5$
ステップ2 各データを2乗する
$2^2=4,\ 4^2=16,\ 4^2=16,\ 4^2=16,\ 5^2=25,\ 5^2=25,\ 7^2=49,\ 9^2=81$
ステップ3 2乗した値の合計を求める
$4+16+16+16+25+25+49+81 = 232$
ステップ4 2乗の平均を求める
$\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i^2 = \frac{232}{8} = 29$
ステップ5 平均の2乗を求める
$\bar{x}^2 = 5^2 = 25$
ステップ6 分散を求める(ステップ4からステップ5を引く)
$s^2 = 29 - 25 = 4$
ステップ7 標準偏差を求める
$s = \sqrt{4} = 2$
検算(定義式でも確かめてみる)
念のため、定義の式でも確認してみましょう。偏差は $2-5=-3,\ 4-5=-1,\ 4-5=-1,\ 4-5=-1,\ 5-5=0,\ 5-5=0,\ 7-5=2,\ 9-5=4$ です。これを2乗すると $9,1,1,1,0,0,4,16$ で、合計は $32$ です。$n=8$ で割ると $s^2=\dfrac{32}{8}=4$ となり、先ほどの結果と一致します。データの個数が多いときは、このように「計算に便利な式」を使うと平均が分数になってもラクに計算できます。
したがって、答えは分散 $s^2=4$、標準偏差 $s=2$ です。
例題3(応用)
問題
あるクラス10人が受けた小テストの得点データについて、平均値が $60$ 点、分散が $9$ であることがわかっています。先生はこのテストの点数を、
$(\text{新しい得点}) = 2\times(\text{元の得点}) + 20$
という式ですべての生徒について変換することにしました。変換後の新しい得点データの平均値・分散・標準偏差を、それぞれ求めなさい。
解答・解説を見る
設定の整理
元の10人の得点を $x_1, x_2, \ldots, x_{10}$ とします。問題文より、元のデータの平均値は $\bar{x}=60$、分散は $s_x^2=9$ です。
新しい得点を $y_i$ とすると、変換の式より、
$y_i = 2x_i + 20 \quad (i=1,2,\ldots,10)$
と表せます。
ステップ1 新しい平均値 $\bar{y}$ を求める
平均値の定義から、
$\bar{y} = \frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}y_i = \frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}(2x_i+20)$
$\sum$ の中身を分けて計算します。
$\frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}(2x_i+20) = \frac{1}{10}\left(2\sum_{i=1}^{10}x_i\right) + \frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}20$
ここで、平均の定義 $\bar{x}=\dfrac{1}{10}\displaystyle\sum_{i=1}^{10}x_i$ より $\displaystyle\sum_{i=1}^{10}x_i = 10\bar{x} = 10\times 60 = 600$ です。また、$20$ を10個足すと $\displaystyle\sum_{i=1}^{10}20 = 200$ です。これらを代入すると、
$\bar{y} = \frac{2\times 600}{10} + \frac{200}{10} = \frac{1200}{10}+\frac{200}{10} = 120+20 = 140$
よって、新しい平均値は $140$ 点です(これは $\bar{y}=2\bar{x}+20$ という形になっていることがわかります)。
ステップ2 新しいデータの偏差を、元のデータの偏差で表す
$y_i$ の偏差 $y_i - \bar{y}$ を計算します。
$y_i - \bar{y} = (2x_i+20) - (2\bar{x}+20)$
右辺のかっこを外すと、
$y_i - \bar{y} = 2x_i + 20 - 2\bar{x} - 20 = 2x_i - 2\bar{x}$
$2x_i - 2\bar{x}$ は $2$ でくくることができるので、
$y_i - \bar{y} = 2(x_i-\bar{x})$
つまり、「新しいデータの偏差」は「元のデータの偏差」のちょうど $2$ 倍になっています。
ステップ3 偏差を2乗する
$(y_i-\bar{y})^2 = \left\{2(x_i-\bar{x})\right\}^2 = 4(x_i-\bar{x})^2$
ステップ4 新しい分散 $s_y^2$ を求める
分散の定義式に代入します。
$s_y^2 = \frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}(y_i-\bar{y})^2 = \frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}4(x_i-\bar{x})^2$
$4$ は $i$ に関係のない定数なので、$\sum$ の外に出せます。
$s_y^2 = 4\times\frac{1}{10}\sum_{i=1}^{10}(x_i-\bar{x})^2$
ここで、$\dfrac{1}{10}\displaystyle\sum_{i=1}^{10}(x_i-\bar{x})^2$ はまさに元のデータの分散 $s_x^2$ の定義そのものです。問題文より $s_x^2=9$ なので、
$s_y^2 = 4\times 9 = 36$
ステップ5 新しい標準偏差 $s_y$ を求める
$s_y = \sqrt{s_y^2} = \sqrt{36} = 6$
結論
したがって、変換後の新しい得点データは、平均値が $140$ 点、分散が $36$、標準偏差が $6$ 点です。
このように、データ全体を $a$ 倍して $b$ を加える($y_i = ax_i+b$ という)変換をすると、平均は $a$ 倍されて $b$ が加わる一方で、分散は $a^2$ 倍、標準偏差は $|a|$ 倍になる、という性質があります。$b$(定数を加える部分)は偏差の計算の中で引き算によって消えてしまうため、分散や標準偏差には影響しないのです。
練習問題
問題
ある部活動の5人の握力測定の記録(単位: kg)は次の通りでした。この5個のデータの分散と標準偏差を求めなさい。
$32, \ 35, \ 38, \ 40, \ 45$
答え
平均値は $\bar{x}=\dfrac{32+35+38+40+45}{5}=\dfrac{190}{5}=38$ です。
偏差は $-6, -3, 0, 2, 7$ で、これを2乗すると $36, 9, 0, 4, 49$、合計は $98$ になります。
分散は $s^2=\dfrac{98}{5}=19.6$、標準偏差は $s=\sqrt{19.6}=\dfrac{7\sqrt{10}}{5}\ (\approx 4.43)$ です。