数学B / 統計的な推測
母集団と標本・標本平均の分布
要点整理
母集団と標本
世論調査で「内閣支持率」を調べるとき、本当は日本国民全員に聞くのが理想ですが、それは現実的ではありません。そこで、国民の中から一部の人を選んで調査し、その結果から全体の傾向を推測します。このとき、調査したい対象全体(この例では日本国民全員)のことを母集団と呼び、実際に調査のために取り出した一部分のことを標本と呼びます。標本に含まれるデータの個数のことを、標本の大きさと呼びます(「標本数」ではなく「標本の大きさ」と呼ぶことに注意しましょう)。
母集団全体についての平均を母平均(記号 $m$)、母集団全体についての標準偏差を母標準偏差(記号 $\sigma$)と呼びます。通常、母集団全部を調べ尽くすことは難しいため、母平均や母標準偏差の正確な値は分からないことがほとんどです。統計的な推測とは、標本から得られる情報をもとに、この分からない母平均などの値を推測していく手法のことです。
標本平均とその分布
母集団から、大きさ $n$ の標本を取り出し、その標本に含まれるデータの平均を計算したものを標本平均と呼び、記号 $\overline{X}$(エックスバー)で表します。
ここで重要なポイントがあります。標本は母集団からランダムに選ばれるため、標本を取り直すたびに、含まれるデータも、その平均 $\overline{X}$ の値も変わってしまいます。つまり、$\overline{X}$ は1つの決まった数ではなく、それ自体が確率変数なのです。この単元では、$\overline{X}$ がどのような分布に従うかを調べます。
標本の中の$1$つ目のデータを $X_1$、$2$つ目を $X_2$、……、$n$つ目を $X_n$ とすると、これらはそれぞれ母集団の分布(母平均$m$、母標準偏差$\sigma$)に従う確率変数だと考えられ、標本平均は、
$\overline{X} = \frac{X_1+X_2+\cdots+X_n}{n}$
と表せます。二項分布の単元で学んだ「和の期待値は期待値の和」「独立な確率変数どうしの和の分散は分散の和」という性質と、期待値・分散の1次変換の公式を組み合わせると、$\overline{X}$ の期待値と分散を求めることができます。
まず期待値です。
$E(\overline{X}) = E\left(\frac{X_1+\cdots+X_n}{n}\right) = \frac{1}{n}\bigl\{E(X_1)+\cdots+E(X_n)\bigr\} = \frac{1}{n}\times \underbrace{(m+m+\cdots+m)}_{n\text{個}} = \frac{nm}{n} = m$
次に分散です。$X_1,\ldots,X_n$ が互いに独立に選ばれているとすると、
$V(\overline{X}) = V\left(\frac{X_1+\cdots+X_n}{n}\right) = \frac{1}{n^2}\bigl\{V(X_1)+\cdots+V(X_n)\bigr\} = \frac{1}{n^2}\times\underbrace{(\sigma^2+\cdots+\sigma^2)}_{n\text{個}} = \frac{n\sigma^2}{n^2} = \frac{\sigma^2}{n}$
したがって、次の公式が得られます。
$E(\overline{X}) = m, \qquad V(\overline{X}) = \frac{\sigma^2}{n}, \qquad \sigma(\overline{X}) = \sqrt{\frac{\sigma^2}{n}} = \frac{\sigma}{\sqrt{n}}$
標本平均の期待値は母平均と同じ $m$ になり、標本平均の標準偏差は、標本の大きさ $n$ が大きくなるほど小さくなっていくことが分かります。これは直感的にも納得できます。標本サイズが大きいほど、標本平均は母平均に近い値になりやすく、バラつきが小さくなるということです。
中心極限定理
さらに重要な事実として、母集団の分布がどんな形(正規分布でなくても構いません)であっても、標本の大きさ $n$ が十分大きければ、標本平均 $\overline{X}$ の分布は近似的に正規分布
$N\left(m,\ \frac{\sigma^2}{n}\right)$
に従うことが知られています。これを中心極限定理と呼びます。この定理のおかげで、母集団の詳しい分布の形が分からなくても、標本平均については正規分布の知識(標準化や正規分布表)を使って確率を計算できるようになります。
例題
例題1(基本)
問題
母平均 $50$、母標準偏差 $10$ の母集団から、大きさ $25$ の標本を取り出すとき、標本平均 $\overline{X}$ の期待値と標準偏差を求めなさい。
解答・解説を見る
標本平均の期待値の公式 $E(\overline{X})=m$ に、$m=50$ を代入します。
$E(\overline{X}) = 50$
標本平均の標準偏差の公式 $\sigma(\overline{X})=\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}$ に、$\sigma=10$、$n=25$ を代入します。$\sqrt{25}=5$ なので、
$\sigma(\overline{X}) = \frac{10}{\sqrt{25}} = \frac{10}{5} = 2$
したがって、$E(\overline{X})=50$、$\sigma(\overline{X})=2$ です。
例題2(標準)
問題
母平均 $60$、母標準偏差 $20$ の母集団から、大きさ $100$ の標本を取り出します。中心極限定理を用いて、標本平均 $\overline{X}$ が $58$ 以上 $64$ 以下となる確率を求めなさい。
解答・解説を見る
まず、標本平均 $\overline{X}$ が近似的に従う正規分布を求めます。$E(\overline{X})=m=60$ です。標準偏差は、
$\sigma(\overline{X}) = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} = \frac{20}{\sqrt{100}} = \frac{20}{10} = 2$
したがって、中心極限定理により $\overline{X}$ は近似的に正規分布 $N(60, 2^2)$ に従います。
$\overline{X}=58$、$\overline{X}=64$ をそれぞれ標準化します。標準化の式 $z=\dfrac{x-m}{\sigma}$ を使います(ここでの$\sigma$は $\overline{X}$ の標準偏差 $2$ です)。
$\overline{X}=58 \ \text{のとき}: \ z = \frac{58-60}{2} = \frac{-2}{2}=-1$
$\overline{X}=64 \ \text{のとき}: \ z = \frac{64-60}{2} = \frac{4}{2}=2$
したがって、求める確率は $P(-1\leq Z\leq2)$ です。標準正規分布の対称性を使って、
$P(-1\leq Z\leq2) = P(0\leq Z\leq1) + P(0\leq Z\leq2)$
正規分布表の値 $P(0\leq Z\leq1)=0.3413$、$P(0\leq Z\leq2)=0.4772$ を代入します。
$P(-1\leq Z\leq2) = 0.3413+0.4772 = 0.8185$
したがって、$\overline{X}$ が $58$ 以上 $64$ 以下となる確率はおよそ $0.8185$ です。
例題3(応用)
問題
母平均 $100$、母分散 $900$ の母集団から標本を取り出します。標本平均 $\overline{X}$ の標準偏差が $3$ 以下になるようにするには、標本の大きさ $n$ をいくつ以上にすればよいか求めなさい。
解答・解説を見る
まず、母標準偏差を求めます。母分散が $900$ なので、
$\sigma = \sqrt{900} = 30$
標本平均の標準偏差の公式 $\sigma(\overline{X})=\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}$ に $\sigma=30$ を代入し、これが $3$ 以下になるという条件を不等式で表します。
$\frac{30}{\sqrt{n}} \leq 3$
両辺に $\sqrt{n}$ をかけます($\sqrt{n}>0$ なので不等号の向きは変わりません)。
$30 \leq 3\sqrt{n}$
両辺を $3$ で割ります。
$10 \leq \sqrt{n}$
両辺を2乗します(両辺とも正の数なので、2乗しても不等号の向きは変わりません)。
$100 \leq n$
したがって、$n\geq100$ であればよいことが分かります。標本の大きさは整数でなければならないので、求める最小の $n$ は、
$n = 100$
したがって、標本の大きさを$100$以上にすればよいです。
練習問題
問題1
母平均 $70$、母標準偏差 $12$ の母集団から、大きさ $36$ の標本を取り出すとき、標本平均 $\overline{X}$ の期待値と標準偏差を求めなさい。
答え
$E(\overline{X})=70$、$\sigma(\overline{X})=\dfrac{12}{\sqrt{36}}=\dfrac{12}{6}=2$
問題2
母平均 $50$、母標準偏差 $15$ の母集団から、大きさ $225$ の標本を取り出します。中心極限定理を用いて、標本平均 $\overline{X}$ が $49$ 以上 $52$ 以下となる確率を求めなさい。ただし $P(0\leq Z\leq1)=0.3413$、$P(0\leq Z\leq2)=0.4772$ とします。
答え
$\sigma(\overline{X})=\dfrac{15}{\sqrt{225}}=\dfrac{15}{15}=1$。$z_1=\dfrac{49-50}{1}=-1$、$z_2=\dfrac{52-50}{1}=2$。
$P(-1\leq Z\leq2)=0.3413+0.4772=0.8185$
問題3
母標準偏差が $40$ である母集団から標本を取り出すとき、標本平均の標準偏差を $5$ 以下にするには、標本の大きさをいくつ以上にすればよいか求めなさい。
答え
$\dfrac{40}{\sqrt{n}}\leq5$ より $\sqrt{n}\geq8$、両辺を2乗して $n\geq64$。