数学B / 統計的な推測

仮説検定の方法

要点整理

仮説検定の考え方のおさらい

数学Iの「データの分析」の単元で、仮説検定の基本的な考え方を学びました。仮説検定とは、ある主張(仮説)が正しいかどうかを、実際に得られたデータをもとに統計的に判断する手法でした。最初にいったん正しいと仮定する主張を帰無仮説(記号 $H_0$)、帰無仮説が誤りだと判断されたときに採用する主張を対立仮説(記号 $H_1$)と呼びます。

判断の基準となる確率を有意水準(記号 $\alpha$、多くは $5\%$ か $1\%$)と呼び、「帰無仮説が正しいと仮定した場合に、有意水準よりも起こりにくいこと(めったに起こらないはずのこと)が実際に起きた」と判断されたときに、帰無仮説を棄却します。この単元では、母平均や母比率についての仮説を、正規分布を使って具体的に検定する方法を学びます。

仮説検定の5つのステップ

正規分布を使った仮説検定は、次の5つのステップで進めます。

  1. 仮説を立てる: 帰無仮説 $H_0$ と対立仮説 $H_1$ を、問題文の主張に合わせて設定する。
  2. 有意水準を決める: 通常は問題文で指定される(多くは $5\%$)。
  3. 検定統計量を計算する: 標本のデータから、後で紹介する式を使って $Z$ の値を計算する。
  4. 棄却域と比較する: 有意水準に対応する棄却域(正規分布表から求まる基準値)と、計算した $Z$ の値を比べる。
  5. 結論を述べる: $Z$ が棄却域に入っていれば「帰無仮説を棄却し、対立仮説を採用する」、入っていなければ「帰無仮説を棄却するに至らない(否定するだけの根拠が得られなかった)」とまとめる。

対立仮説の立て方によって、検定は2つのタイプに分かれます。「等しくない($\neq$)」という対立仮説の場合は両側検定と呼び、棄却域は正規分布のグラフの両端(左右)に取ります。「より大きい($>$)」や「より小さい($<$)」という対立仮説の場合は片側検定と呼び、棄却域は片方の端だけに取ります。

有意水準 $5\%$ のときの主な基準値(正規分布表から求められる値)は次の通りです。

検定の種類 基準となる $z$ の値
両側検定(有意水準5%) $1.96$
片側検定(有意水準5%) $1.64$
両側検定(有意水準1%) $2.58$
片側検定(有意水準1%) $2.33$

母平均の検定

母標準偏差が $\sigma$ であると分かっている母集団において、母平均が $m_0$ であるという帰無仮説 $H_0: m=m_0$ を検定します。大きさ $n$ の標本の標本平均を $\overline{X}$ とすると、帰無仮説が正しいとき、中心極限定理により $\overline{X}$ は近似的に正規分布 $N\left(m_0,\dfrac{\sigma^2}{n}\right)$ に従うので、これを標準化した、

$Z = \frac{\overline{X}-m_0}{\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}}$

は近似的に標準正規分布 $N(0,1)$ に従います。この $Z$ の値を計算し、棄却域と比較します。

母比率の検定

ある性質を持つ割合(母比率)が $p_0$ であるという帰無仮説 $H_0: p=p_0$ を検定します。大きさ $n$ の標本の中で、その性質を持つ標本の割合(標本比率)を $R$ とすると、帰無仮説が正しいとき、$R$ は近似的に正規分布 $N\left(p_0,\dfrac{p_0(1-p_0)}{n}\right)$ に従うことが知られています(これは、その性質を持つ個数が二項分布 $B(n,p_0)$ に従うことと、標本比率が「個数を$n$で割ったもの」であることから導かれます)。これを標準化した、

$Z = \frac{R-p_0}{\sqrt{\dfrac{p_0(1-p_0)}{n}}}$

は近似的に標準正規分布 $N(0,1)$ に従います。

例題

例題1(基本)

問題

あるコインを400回投げたところ、表が220回出ました。このコインは、表と裏が同じ確率で出る公正なコインだと言えるか、有意水準5%で両側検定しなさい。

解答・解説を見る

ステップ1(仮説を立てる): 「表の出る確率は$0.5$である」という主張を帰無仮説とし、「表の出る確率は$0.5$ではない」という主張を対立仮説とします。

$H_0: p=0.5, \qquad H_1: p\neq0.5$

対立仮説が「等しくない」なので、これは両側検定です。

ステップ2(有意水準): 問題文より、有意水準 $5\%$ とします。

ステップ3(検定統計量の計算): 標本比率は $R=\dfrac{220}{400}=0.55$、$n=400$、$p_0=0.5$ です。母比率の検定統計量の公式に代入します。

まず、分母の $\sqrt{\dfrac{p_0(1-p_0)}{n}}$ を計算します。

$\sqrt{\frac{0.5\times0.5}{400}} = \sqrt{\frac{0.25}{400}} = \sqrt{0.000625}$

$0.000625 = 0.025^2$($0.025\times0.025=0.000625$)なので、

$\sqrt{0.000625} = 0.025$

これを使って $Z$ を計算します。

$Z = \frac{0.55-0.5}{0.025} = \frac{0.05}{0.025} = 2$

ステップ4(棄却域と比較する): 両側検定・有意水準5%の基準値は $1.96$ です。$|Z|=2$ は $1.96$ より大きいので、$Z$は棄却域に入っています。

ステップ5(結論): 帰無仮説 $H_0$ を棄却します。したがって、このコインは、表と裏が同じ確率で出るコインとは言えない(表が出やすい傾向があると考えられる)と結論できます。

例題2(標準)

問題

ある機械が製造するボルトの長さは、母標準偏差 $2.0$ mm であることが分かっています。この機械の設定を変更したところ、変更後に製造されたボルト100本を調べたところ、標本平均は $50.6$ mm でした。設定変更前の平均の長さは $50.0$ mm でした。設定変更によって、ボルトの平均の長さが $50.0$ mm より大きくなったと言えるか、有意水準5%で片側検定しなさい。

解答・解説を見る

ステップ1(仮説を立てる): 「設定変更後も平均は変わらず$50.0$ mm である」という主張を帰無仮説とし、「設定変更後は平均が$50.0$ mm より大きくなった」という主張を対立仮説とします。

$H_0: m=50.0, \qquad H_1: m>50.0$

対立仮説が「より大きい」という片方向の主張なので、これは片側検定です。

ステップ2(有意水準): 問題文より、有意水準 $5\%$ とします。

ステップ3(検定統計量の計算): $\overline{X}=50.6$、$m_0=50.0$、$\sigma=2.0$、$n=100$ です。母平均の検定統計量の公式に代入します。まず分母を計算します。

$\frac{\sigma}{\sqrt{n}} = \frac{2.0}{\sqrt{100}} = \frac{2.0}{10} = 0.2$

これを使って $Z$ を計算します。

$Z = \frac{50.6-50.0}{0.2} = \frac{0.6}{0.2} = 3$

ステップ4(棄却域と比較する): 片側検定・有意水準5%の基準値は $1.64$ です。$Z=3$ は $1.64$ より大きいので、$Z$は棄却域に入っています。

ステップ5(結論): 帰無仮説 $H_0$ を棄却します。したがって、設定変更によってボルトの平均の長さは $50.0$ mm より大きくなったと言えます。

例題3(応用)

問題

ある新しい肥料を使わない場合、植物の高さの母平均は $50$ cm、母標準偏差は $6$ cm であることが分かっています。この肥料を使った植物36本を調べたところ、標本平均は $52$ cm でした。この肥料には植物の成長を促進する効果があると言えるか、(1) 有意水準5%、(2) 有意水準1%、のそれぞれで片側検定し、結論を比較しなさい。

解答・解説を見る

ステップ1(仮説を立てる): 「肥料を使っても平均は変わらず$50$ cm である」という主張を帰無仮説とし、「肥料を使うと平均が$50$ cm より大きくなる」という主張を対立仮説とします。

$H_0: m=50, \qquad H_1: m>50$

これは片側検定です。

ステップ3(検定統計量の計算): $\overline{X}=52$、$m_0=50$、$\sigma=6$、$n=36$ です。まず分母を計算します。

$\frac{\sigma}{\sqrt{n}} = \frac{6}{\sqrt{36}} = \frac{6}{6} = 1$

これを使って $Z$ を計算します。

$Z = \frac{52-50}{1} = 2$

(1) 有意水準5%で検定する場合

片側検定・有意水準5%の基準値は $1.64$ です。$Z=2$ は $1.64$ より大きいので、棄却域に入ります。したがって、有意水準5%では帰無仮説を棄却し、「肥料には成長を促進する効果があると言える」と結論します。

(2) 有意水準1%で検定する場合

片側検定・有意水準1%の基準値は $2.33$ です。$Z=2$ は $2.33$ より小さいので、棄却域に入りません。したがって、有意水準1%では帰無仮説を棄却するに至らず、「肥料に成長を促進する効果があるとまでは言えない」と結論します。

まとめ

同じデータ($Z=2$)であっても、判断の厳しさを表す有意水準を変えると、結論が変わることがあります。有意水準を小さくする($5\%\to1\%$)ということは、「よりめったに起こらないことが起きた場合にしか帰無仮説を疑わない」という、より厳しい基準で判断することを意味します。そのため、同じデータでも、有意水準1%のような厳しい基準では、5%のときには棄却できた帰無仮説を棄却できない場合があります。どちらの結論がより「正しい」ということではなく、どのくらい厳しい基準で判断したいかによって、有意水準を使い分ける必要があります。

練習問題

問題1

あるサイコロを600回投げたところ、1の目が120回出ました。このサイコロは1の目が出る確率が$\dfrac{1}{6}$から偏っていると言えるか、有意水準5%で両側検定しなさい。

答え

$R=\dfrac{120}{600}=0.2$、$p_0=\dfrac{1}{6}$、$\sqrt{\dfrac{p_0(1-p_0)}{n}}=\sqrt{\dfrac{\frac{1}{6}\times\frac{5}{6}}{600}}=\sqrt{\dfrac{5}{21600}}\approx0.0152$。

$Z=\dfrac{0.2-0.1667}{0.0152}\approx2.19$。$|Z|\approx2.19>1.96$ なので帰無仮説を棄却し、偏りがあると言える。

問題2

ある薬を飲むと、体温が下がる効果があるかどうかを調べています。薬を飲まない場合の体温の母平均は $37.0$℃、母標準偏差は $0.4$℃ であることが分かっています。薬を飲んだ64人を調べたところ、標本平均は $36.9$℃ でした。薬に体温を下げる効果があると言えるか、有意水準5%で片側検定しなさい。

答え

$H_0:m=37.0$、$H_1:m<37.0$。$\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}=\dfrac{0.4}{8}=0.05$。$Z=\dfrac{36.9-37.0}{0.05}=-2$。

片側検定の基準値$1.64$と比較して$|Z|=2>1.64$なので棄却域に入り、体温を下げる効果があると言える。

問題3

問題2のデータについて、有意水準1%で検定するとどうなるか答えなさい。

答え

片側検定・有意水準1%の基準値は$2.33$。$|Z|=2<2.33$なので棄却域に入らず、有意水準1%では効果があるとまでは言えない。