数学B / 統計的な推測
正規分布の基本
要点整理
連続型確率変数とは
これまで扱ってきたサイコロの目や硬貨の表の枚数などは、$1,2,3,\ldots$ のように、とびとびの値しかとらない確率変数でした。このような確率変数を離散型確率変数と呼びます。
これに対して、身長や体重、時間のように、間を切れ目なく埋め尽くすように連続的な値をとることができる確率変数のことを連続型確率変数と呼びます。連続型確率変数では、「ちょうどある1つの値になる確率」を考えるのではなく、「ある範囲に入る確率」を、グラフ(曲線)の下側の面積として考えます。このグラフの縦軸にあたる関数を確率密度関数と呼びますが、この単元では関数の細かい式よりも、グラフの形と面積の意味を理解することを重視します。
離散型確率変数の確率分布で「すべての確率を足すと$1$になる」という性質があったのと同じように、連続型確率変数でも「グラフの下側の面積の合計は$1$になる」という性質があります。
正規分布とは
連続型確率変数がとる分布の中でも、特に重要なのが正規分布です。正規分布のグラフは、平均の値を中心にして左右対称な、釣り鐘のような形をしています。平均に近い値ほど起こりやすく(グラフが高い)、平均から離れるほど起こりにくくなる(グラフが低くなる)という特徴を持っています。
正規分布は、平均 $m$ と分散 $\sigma^2$(標準偏差 $\sigma$ の2乗)という、たった2つの数値によって形が完全に決まります。確率変数 $X$ が、平均 $m$、分散 $\sigma^2$ の正規分布に従うことを、次のように表します。
$X \sim N(m, \sigma^2)$
($N$ は Normal「正規の」の頭文字です。かっこの中には、平均と分散をこの順に書きます。)標準偏差 $\sigma$ が大きいほど、グラフの山は横に広がって低くなり(データが平均から広く散らばっている)、$\sigma$ が小さいほど、グラフの山は縦に細くとがった形になります(データが平均の近くに集中している)。
標準偏差の範囲とデータの割合(経験則)
正規分布には、平均 $m$ から標準偏差 $\sigma$ の何個分離れた範囲に、全体のどれくらいの割合のデータが入るか、という目安になる性質があります。
- 平均 $\pm 1\sigma$ の範囲には、全体の約 $68\%$ が入る
- 平均 $\pm 2\sigma$ の範囲には、全体の約 $95\%$ が入る
- 平均 $\pm 3\sigma$ の範囲には、全体の約 $99.7\%$ が入る
この性質は、正規分布に従うデータのおおよその散らばり方をイメージするのにとても役立ちます。より正確な確率の計算方法は、次の単元「標準正規分布と確率計算」で学びます。
正規分布を1次式で変換したときの性質
確率変数 $X$ が正規分布 $N(m,\sigma^2)$ に従うとき、$X$ を1次式で変換した新しい確率変数 $Y=aX+b$($a\neq0$)を考えます。期待値・分散の単元で学んだ公式 $E(aX+b)=aE(X)+b$、$V(aX+b)=a^2V(X)$ を使うと、$Y$の平均は $am+b$、分散は $a^2\sigma^2$ になることが分かります。
正規分布には、「正規分布に従う確率変数を1次式で変換したものも、やはり正規分布に従う」という特別な性質があります(これは正規分布だけが持つ特別な性質で、証明にはより高度な数学が必要になるため、この単元では結果として使えるようにしておきます)。したがって、
$X\sim N(m,\sigma^2) \ \text{のとき} \ aX+b \sim N(am+b,\ a^2\sigma^2)$
が成り立ちます。この性質は、次の単元で学ぶ「標準化」という考え方の土台になります。
例題
例題1(基本)
問題
ある高校の生徒の身長 $X$(cm)が、正規分布 $N(165, 36)$ に従うとします。この分布の平均と標準偏差を求めなさい。
解答・解説を見る
正規分布の記号 $N(m,\sigma^2)$ では、かっこの中の1つ目の数が平均 $m$、2つ目の数が分散 $\sigma^2$ を表します。$N(165,36)$ と書かれているので、
$m = 165$
$\sigma^2 = 36$
標準偏差 $\sigma$ は分散の正の平方根なので、
$\sigma = \sqrt{36} = 6$
したがって、平均は $165$ cm、標準偏差は $6$ cm です。つまり、この分布のグラフは、$165$ cm を中心とした左右対称な釣り鐘型で、$165$ cm から $6$ cm 離れるごとに、そのあたりの身長の生徒の多さ(密度)が変化していくことを表しています。
例題2(標準)
問題
あるテストの得点 $X$ が、正規分布 $N(60,100)$ に従うとします。経験則を使って、得点のおよそ $95\%$ の生徒が含まれる得点の範囲を求めなさい。
解答・解説を見る
まず、平均と標準偏差を読み取ります。$N(60,100)$ より、平均は $m=60$、分散は $\sigma^2=100$ です。標準偏差は、
$\sigma = \sqrt{100} = 10$
経験則によると、平均 $\pm2\sigma$ の範囲に、全体の約 $95\%$ のデータが含まれます。したがって、求める範囲は、
$60 - 2\times10 \ \text{から} \ 60+2\times10$
すなわち、
$60-20=40 \ \text{から} \ 60+20=80$
したがって、得点のおよそ $95\%$ の生徒は、$40$ 点から $80$ 点の範囲に含まれると考えられます。
例題3(応用)
問題
確率変数 $X$ が正規分布 $N(50,16)$ に従うとします。$Y=2X-10$ とするとき、$Y$ が従う正規分布を $N(\Box,\Box)$ の形で求めなさい。
解答・解説を見る
$X\sim N(50,16)$ なので、平均 $m=50$、分散 $\sigma^2=16$ です。$Y=2X-10$ は $X$ の1次式($a=2$、$b=-10$)なので、1次変換の性質 $aX+b\sim N(am+b,\ a^2\sigma^2)$ を使います。
まず、$Y$の平均を求めます。
$am+b = 2\times50+(-10) = 100-10=90$
次に、$Y$の分散を求めます。
$a^2\sigma^2 = 2^2\times16 = 4\times16=64$
したがって、
$Y \sim N(90, 64)$
(参考: $Y$の標準偏差は $\sqrt{64}=8$ です。$X$の標準偏差が $\sqrt{16}=4$ だったのに対して、$2$倍に変換したことで標準偏差もちょうど$2$倍の$8$になっていることが確認できます。)
練習問題
問題1
確率変数 $X$ が正規分布 $N(70,25)$ に従うとき、平均と標準偏差を求めなさい。
答え
平均 $m=70$、標準偏差 $\sigma=\sqrt{25}=5$
問題2
確率変数 $X$ が正規分布 $N(100,225)$ に従うとき、経験則を使って、全体の約$68\%$のデータが含まれる範囲を求めなさい。
答え
$\sigma=\sqrt{225}=15$ なので、平均$\pm1\sigma$の範囲は $100-15=85$ から $100+15=115$。
問題3
確率変数 $X$ が正規分布 $N(20,9)$ に従うとき、$Y=3X+5$ が従う正規分布を求めなさい。
答え
平均: $3\times20+5=65$、分散: $3^2\times9=81$ より $Y\sim N(65,81)$