公式の証明・導出
内積の性質の証明
関連単元: 数学C ベクトル
証明する内容
平面ベクトル $\vec{a}=(a_1,a_2)$、$\vec{b}=(b_1,b_2)$、$\vec{c}=(c_1,c_2)$ と、実数 $k$ について、内積は成分を使って
$ \vec{a}\cdot\vec{b} = a_1b_1+a_2b_2 $
と計算できます。このとき、内積について次の性質が成り立ちます。
性質1(交換法則)
$ \vec{a}\cdot\vec{b} = \vec{b}\cdot\vec{a} $
性質2(分配法則)
$ \vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c}) = \vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c} $
性質3(スカラー倍との関係)
$ (k\vec{a})\cdot\vec{b} = k(\vec{a}\cdot\vec{b}) = \vec{a}\cdot(k\vec{b}) $
性質4(自分自身との内積)
$ \vec{a}\cdot\vec{a} = |\vec{a}|^2 $
これらは、内積が「掛け算や足し算に似た、扱いやすい規則に従う」ということを保証してくれる性質であり、図形の問題をベクトルの計算に置き換えて解くときに何度も使われます。以下、それぞれを成分計算によって証明します。なお、空間ベクトル(成分が3つの場合)についても、成分が1つ増えるだけで、全く同じ考え方で証明できます。
証明
性質1: $\vec{a}\cdot\vec{b}=\vec{b}\cdot\vec{a}$ の証明
内積の成分による定義から、左辺は
$ \vec{a}\cdot\vec{b} = a_1b_1+a_2b_2 $
です。一方、右辺は、$\vec{b}\cdot\vec{a}$ の定義において $\vec{b}$ の成分と $\vec{a}$ の成分の役割を入れ替えて、
$ \vec{b}\cdot\vec{a} = b_1a_1+b_2a_2 $
です。ここで、$a_1b_1$ と $b_1a_1$ は、実数の掛け算の順序を入れ替えただけの同じ値であり($a_1b_1=b_1a_1$)、同様に $a_2b_2=b_2a_2$ です。したがって、
$ \vec{a}\cdot\vec{b} = a_1b_1+a_2b_2 = b_1a_1+b_2a_2 = \vec{b}\cdot\vec{a} $
となり、性質1が示されました。
性質2: $\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})=\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}$ の証明
まず、$\vec{b}+\vec{c}$ を成分で計算します。ベクトルの和は成分ごとの和なので、
$ \vec{b}+\vec{c} = (b_1+c_1,\ b_2+c_2) $
です。この $\vec{b}+\vec{c}$ と $\vec{a}=(a_1,a_2)$ との内積を、内積の定義に従って計算します。
$ \vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c}) = a_1(b_1+c_1) + a_2(b_2+c_2) $
右辺のそれぞれの括弧を展開(分配法則を使って掛け算をばらす)します。
$ a_1(b_1+c_1) = a_1b_1+a_1c_1, \qquad a_2(b_2+c_2)=a_2b_2+a_2c_2 $
これらを代入すると、
$ \vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c}) = a_1b_1+a_1c_1+a_2b_2+a_2c_2 $
ここで、右辺の4つの項の順序を並べ替えて、$a_1b_1$ と $a_2b_2$ を隣り合わせに、$a_1c_1$ と $a_2c_2$ を隣り合わせにします(実数の足し算は順序を変えても値が変わりません)。
$ = (a_1b_1+a_2b_2) + (a_1c_1+a_2c_2) $
最初の括弧 $(a_1b_1+a_2b_2)$ は $\vec{a}\cdot\vec{b}$ の定義そのものであり、2番目の括弧 $(a_1c_1+a_2c_2)$ は $\vec{a}\cdot\vec{c}$ の定義そのものです。したがって、
$ \vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c}) = \vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c} $
が示されました。
性質3: $(k\vec{a})\cdot\vec{b}=k(\vec{a}\cdot\vec{b})=\vec{a}\cdot(k\vec{b})$ の証明
まず、$k\vec{a}$ を成分で計算します。ベクトルの $k$ 倍は各成分を $k$ 倍することなので、
$ k\vec{a} = (ka_1,\ ka_2) $
です。この $k\vec{a}$ と $\vec{b}=(b_1,b_2)$ との内積を計算します。
$ (k\vec{a})\cdot\vec{b} = (ka_1)b_1+(ka_2)b_2 = ka_1b_1+ka_2b_2 $
右辺全体から $k$ をくくり出すと、
$ ka_1b_1+ka_2b_2 = k(a_1b_1+a_2b_2) $
括弧の中身 $a_1b_1+a_2b_2$ は $\vec{a}\cdot\vec{b}$ の定義そのものなので、
$ (k\vec{a})\cdot\vec{b} = k(\vec{a}\cdot\vec{b}) $
が示されました。同様に、$k\vec{b}=(kb_1,kb_2)$ であることから、
$ \vec{a}\cdot(k\vec{b}) = a_1(kb_1)+a_2(kb_2) = ka_1b_1+ka_2b_2 = k(a_1b_1+a_2b_2) = k(\vec{a}\cdot\vec{b}) $
も同じように示されます。以上から、
$ (k\vec{a})\cdot\vec{b} = k(\vec{a}\cdot\vec{b}) = \vec{a}\cdot(k\vec{b}) $
が示されました。
性質4: $\vec{a}\cdot\vec{a}=|\vec{a}|^2$ の証明
内積の定義において、$\vec{b}$ の代わりに $\vec{a}$ 自身を代入します。
$ \vec{a}\cdot\vec{a} = a_1a_1+a_2a_2 = a_1^2+a_2^2 $
一方、ベクトルの大きさ(長さ)$|\vec{a}|$ は、三平方の定理により
$ |\vec{a}| = \sqrt{a_1^2+a_2^2} $
と定義されます。この両辺を2乗すると、
$ |\vec{a}|^2 = a_1^2+a_2^2 $
となります。これは、先ほど計算した $\vec{a}\cdot\vec{a}=a_1^2+a_2^2$ と完全に一致しています。したがって、
$ \vec{a}\cdot\vec{a} = |\vec{a}|^2 $
が示されました。
この証明のポイント
内積に関する性質はどれも、「成分の定義に戻って両辺を実際に計算し、実数の足し算・掛け算の性質(順序を変えてよい、掛け算をばらしてよい、共通因数でくくれる)を使って両辺が一致することを確かめる」という同じ流れで証明できます。ベクトルに関する等式を証明するときに迷ったら、まず成分で書き下してみるという方針が、多くの場合で有効です。